(1)海産物バンク 有名産地へ“緊急融資”も
 
たまな「今」と課題
天草市有明町沖で捕れたタコ。“分家”の明石に負けぬ味のよさも自慢だ
 熊日は十一月三日、天草市で、地域交流事業「地域とともに こんにちは熊日です」を開く。「天草は宝島」をテーマにした地域フォーラムをメーンに、十七のイベントを予定している。今年三月、二市八町が合併して誕生した同市は、多様な地域資源を抱えるが、アピール不足も指摘されている。事業を前に、天草の宝の数々を掘り出してみた。
 
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 兵庫県明石海峡特産の「明石のタコ」は、タイと並んで古くから全国的な知名度を持つブランド。しかし、天草市有明町の鍬田敏夫・同町商工会長(65)は「明石のタコは分家。こっちが本家ですばい」と胸を張る。昨年から本格的に「タコの町」をPRし始めた新興勢力の同町だが、老舗の明石相手に誇ってみせるのには、ちゃんと裏付けがある。

 一九六三(昭和三十八)年の一月から二月にかけて、明石海峡一帯を猛烈な寒波が襲った。海水温度は、マダコが死滅するとされる五度以下にまで下がり、漁獲量は半減した。

 同年夏、地元漁協は二カ月間タコを全面禁漁。兵庫県などが、有明町をはじめとする天草産の雌の抱卵ダコ約三万七千匹を同海峡に放流した。翌年から、漁獲量は被害前並みに復活。後に「サンパチ冷害」として伝えられる明石のタコの一大危機を救った。

 「現在の明石のタコの多くが、天草の子孫と言われても、まあ間違いではないですね」(兵庫県水産技術センター)と明石側も認めるところだ。

 有名産地への天草の海産物の”緊急融資”はタコだけにとどまらない。

 アサクサノリは、江戸時代、江戸・品川沖で養殖が始まり、浅草寺の門前市で売られたのが品種名の起源とされる。一九六〇年代までは全国の養殖ノリの主流だったが、今では病害に強いスサビノリに全面的に置き換わり、アサクサノリは環境省のレッドデータブックで絶滅危ぐ種に指定されるまでになっている。

 千葉県木更津市の漁業者らでつくるNPO法人「盤州里海の会」(金萬智男理事長)は東京湾で本場江戸前のアサクサノリの復活を計画。五年前から、天草市河浦町と同市新和町から採取した天然アサクサノリを使って実験養殖を始め、将来的には特産としての販売を目指している。

 「天草では、地元の人たちが全くアサクサノリの存在を知らないでいることに驚いた。そういう所だからこそ、貴重な種が残ったんでしょうが…」と金萬理事長(47)。

 天草自然研究会代表で県希少野生動植物調査員の吉崎和美さん(56)=天草市有明町=は「天草の海産物の多様さ、豊富さは全国的にも別格」と言う。「他地域では絶滅した種が多量に生息している例は多い。まさしく天草は海産物バンク。よそから見れば大変な財産を抱えていることを、私たちはもっと自覚するべきでしょうね」(泉潤)
熊本日日新聞社2006年10月26日朝刊