【電子版拡大版】ワークマン躍進の〝仕掛け人〟土屋哲雄専務に直撃 熊本の将来性、地方企業の成功の鍵、人材育成…

熊本日日新聞 2024年5月3日 06:10
ワークマン躍進をけん引した土屋哲雄専務=菊陽町
ワークマン躍進をけん引した土屋哲雄専務=菊陽町

 作業服最大手のワークマン(群馬県)は、女性目線をテーマに作業服の機能性を備えたカジュアル服を低価格で提供する新業態「#ワークマン女子」の熊本1号店を、ゆめタウン光の森(菊陽町)に出店した。同社の売り上げを5年で2倍にした躍進のけん引役と言われる土屋哲雄専務(71)に、出店の狙いなどを聞いた。(高橋俊啓)

「#ワークマン女子」の熊本初進出となった「ゆめタウン光の森店」
「#ワークマン女子」の熊本初進出となった「ゆめタウン光の森店」

 -光の森に出店した理由を教えてください。

 「当社は、ファミリーで訪れる郊外型店が強い。ワークマン女子の客層で一番多いのは、子ども連れを含めた40代女性だ。駅前や熊本市中心部からの出店の打診があったが、ゆめタウン光の森のテナントが空くまで約2年待った。近隣に半導体関連企業が集積し、新興住宅の建設も伸びている。熊本市からも近く、光の森店は九州ナンバーワンになれると思っている」

 -熊本で「ワークマン女子」を展開する狙いは。

 「(本業の)作業服の販売が好調なので、『女子』で違いを出したい。光の森店には『女子』の専売商品を半分以上並べるつもりだ。今後は、熊本市や八代市などでワークマン女子の路面店を展開したい」

 -2015年に熊本に進出し、今回で14店舗目です。熊本の市場をどう見ていますか。

 「熊本は工場が多く、インフラ建設や産業誘致も活発で全店舗とも絶好調だ。半導体産業は裾野が広く、熊本はすごい産業集積地になるだろう。景気が良く、当社も恩恵を受けている」

撥水機能が高いウエアもそろえる「#ワークマン女子ゆめタウン光の森店」=菊陽町
撥水機能が高いウエアもそろえる「#ワークマン女子ゆめタウン光の森店」=菊陽町

 -台湾進出を視野に入れています。台湾積体電路製造(TSMC)の工場がある熊本での事業は、その試金石になりそうです。

 「熊本には台湾との直行便があり、台湾人の来訪も多い。交流サイト(SNS)を活用した商品PRに力を入れており、台湾人インフルエンサーを熊本に呼びたい。台湾は雨が多いが雨がっぱの種類が少ない。雨がっぱは当社の主力商品で70種類ある。暑い台湾でも着ることができる製品をすでに開発した。進出に向けた準備を進めている」

 -ワークマンは地方発の企業で急成長しています。成功の鍵を教えてください。

 「原点だった作業服を、機能性ウエアに置き換えて世界が広がった。昔からのしがらみや枠組みを外し、事業ドメイン(提供する商品やサービスの範囲)を少し変えてみることだ。熊本は、今の日本で珍しく追い風が吹いている地域。思い切った挑戦をしても、簡単には失敗しないのではないか」

「#ワークマン女子」で人気の「シン・呼吸するインナー」
「#ワークマン女子」で人気の「シン・呼吸するインナー」

 -ワークマンの23年3月期の売り上げは1698億円。18年(797億円)の2倍。アパレル参入が成功しました。

 「当社はあくまで作業着屋。若い職人さんを取り込もうとスタイリッシュな作業服に取り組み、一般客まで幅を広げた。一にも二にも機能性だ。ユニクロやしまむら、西松屋と同じ土俵では勝てない」

 「例えば、当社の女性向けTシャツにもポケットをつける。アパレル業界はデザインを重視して、ポケットを敬遠するが、子どもがいる人も使いやすいように、お菓子やタオル、ペットボトルが入るようにしている。スカートにも撥[はっ]水機能をつけるなど機能性で勝負している」

 -躍進の原動力は?

 「『しない経営』だ。余計なことをしない。今ならワークマン女子など新規事業を立ち上げることだけに集中する。ノルマや期限もない。それで熊本の女子1号店も2~3年かかってしまった(笑)。当社は社内行事もない。既婚女性に好評で、社内のコミュニケーションは昼間だけでいい。(経営者は)管理しない。現場を知らない経営者は間違っているから、自己責任で走ってほしい。今ある商品も社員が勝手に作っている」

 -ノルマや期限は必要ないのですか?

 「ノルマや期限を設けてむちをたたくと、社員はウソをつく。(以前勤めた)商社では、できもしない大きな目標をたてたけど、誰もやれるって思っていないこともあった。社員がやれる範囲で、自己責任で走ってほしかった。すると社員同士で競争が生まれた」。

 「ノルマや期限がない代わりに、成功するまでやる。3~4年かかって駄目ならやめる。当社は商品1年目は少なく生産して、2年目で需要を見極め、3年目から統計的に計算して生産する仕組み。ノルマがあれば、1年目を捨てることはできない」。

「撥水ランダムプリーツショーツ」は子育てママに人気という
「撥水ランダムプリーツショーツ」は子育てママに人気という

 -社員のやる気を引きだしています。

 「増収減益でも2年連続で5・1%賃上げした。減益は社員の責任ではないからだ。中期業態変革ビジョンをつくった時、景気付けにベースアップを実行した。ワークマン女子のアイデアも、やる気になった社員が立ち上げた。ワークマンの役員に就いた時、社員の年収は約560万円だったが、今は約700万円。成果の先払いをしている」

 -その経営に、どんな信念がありますか。

 「人は前に進むという性善説だ。当社は『オーガニック成長』。社員が成長するまで待つし、育たなければ、会社も成長しなくていい。だからM&A(企業の合併・買収)もしないし、幹部の中途採用もしない。外から人材を連れてきて無理やりやっても一時的なものだ」

ウィモーションパンツも人気商品の一つ
ウィモーションパンツも人気商品の一つ

 -「エクセル経営」と聞いたことがあります。

 「当社はオーナー系。社員が忖度[そんたく]しないように、社内で数字を基に議論するようにした。分析の式や数字の取り方が間違っていると言えば、上司の人格否定につながらない。経営者より数字を信じて、社員自ら分析して事業を進める『自立分散型』が理想だ。知見のない業態で失敗しないのは、データで運営しているから。加盟店の発注ではなく、本部が勝手に商品を発送する仕組みだ。それもエクセルで管理している」

 -今後の展望は。

 「毎年40店舗ずつ出店したい。円安が進んでおり、値段の据え置きは難しいが、業界最安値は維持する。当社が勝負する機能性をグレード化して、アパレル業界に公開したい。例えば撥水機能「1」なら小雨に対応できるといった具合だ。他社にも採用できるようプラットフォーム化したい」

つちや・てつお 東京大卒。75年三井物産入社。三井物産デジタル社長、三井情報取締役を経て、12年ワークマン入社。19年から現職。埼玉県出身。
つちや・てつお 東京大卒。75年三井物産入社。三井物産デジタル社長、三井情報取締役を経て、12年ワークマン入社。19年から現職。埼玉県出身。

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