【連鎖の衝撃 建物編①】 震度7が連続の益城町 経験ない揺れ、住宅直撃 新基準でも17棟全壊
4月14日夜、益城町広崎の伊藤俊明さん(61)は、自宅1階でくつろいでいた。午後9時26分ごろの突然の地震で、家屋1階は押しつぶされるように崩落。2階にいた兄が救助を呼びに飛び出したが、俊明さんは助からなかった。
「上下左右に揺さぶられるような、経験したことのない揺れだった」と、近くの屋外にいた妹の幸子さん(56)は話す。
益城町では住宅倒壊などによって20人が死亡。研究者らによると、犠牲者の出た家屋の多くは、建築基準法の新耐震基準が定められた1981年以前の建物だったとみられている。伊藤さん宅も築40年が経っていた。
新基準に適合した住宅も万全だったわけではない。どっしりとした黒い瓦屋根、築20年という岩岡謙一郎さん(79)=同町宮園=の木造2階建ての自宅も、1階部分がぺしゃんこになった。
14日の前震の時、岩岡さん夫婦は2階で寝ていた。「バキッという音で目が覚め、驚いて1階に駆け降りようとすると、階段がなかった」と恐怖の時を振り返る。
一帯は県道熊本高森線と秋津川に挟まれた地域で、軒並み家屋が倒壊。前震後に臨時の地震計を多数設置した大阪大の研究者によると、地盤が軟弱なために揺れが増幅されていたという。
九州では台風に備えて重い瓦屋根の家が多く、建物の重心が高くなって横揺れに弱いことも、被害を大きくしたとみられている。
4月16日の本震には、阪神大震災と同じく周期1~2秒の特徴的な地震動が含まれ、低層の一般住宅に被害を及ぼしやすかったとされている。
さらに研究者らの目を引いたのは、最近の新築住宅も多数被害を受けていたことだ。日本建築学会が益城町役場を中心に約2600棟を調べた結果、基準の厳しくなった2000年以降に建てられたとみられる新築住宅も、17棟が全壊したことが分かった。
県によると、余震などに備えた応急危険度判定で「危険」とされた県内の建物は12日現在で1万4975棟。阪神大震災(6476棟)、新潟県中越地震(5243棟)の2~3倍だ。(馬場正広、山口尚久)
◇ ◇
前震から本震と国内で初めて震度7を連続して観測した熊本地震。余震の回数は1カ月で1400回を超え、いまも建物や居住環境に脅威を与えている。「熊本地震 連鎖の衝撃 建物編」では、住宅、役場庁舎、避難所の建物などに及んだ地震の影響と課題を検証する。
耐震基準 建築基準法に基づき定めた基準。旧来は震度5強程度で「ほとんど損傷しない」こととされていた。1978年の宮城県沖地震を受け、81年に新基準に改正。壁の量などを増やし、震度6強~7程度で「倒壊・崩壊の恐れがない」こととした。木造家屋の被害が多発した95年の阪神大震災をきっかけに、さらに2000年に強化された。
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