【連鎖の衝撃 生命編④】母を亡くした元警察官 「たった1分で世界が…」
「たった1分で、すっかり世界が変わりました…」
益城町中心部にある町交流情報センター。自らも避難者である同町寺迫の富田賢一さん(65)は、ため息とともに言葉を継いだ。機動隊にも勤務した元警察官。土砂崩れの現場は何度も踏んだが、「こんな惨状は想像できなかった」。
今回、2度にわたる震度7の揺れで、益城町では県内で最多の20人が亡くなった。寺迫地区は家屋倒壊が激しく、2人が犠牲に。賢一さんの母知子さん(89)は、前震で犠牲となった。
◇ ◇
4月14日午後9時半すぎ。富田さん宅近くで農機具店を営む園川浩さん(57)は、揺れが収まると、自宅裏の坂道を駆け上がった。
「おじちゃん、おばちゃんは大丈夫だろか」。裏手には、普段から気にかけていた山中公夫さん(75)、見栄さん(74)の老夫婦が住んでいた。たどり着くなり、額を切った見栄さんが飛び出してきた。「お父さんがまだ中で寝とる」
園川さんは、ゆがんだ玄関から中へ。寝室に急ぐと、熟睡していた公夫さんがぼんやりとベッドに腰掛けていた。左手甲の皮がめくれ、布団は血で真っ赤に。人形ケースが転がり、たんすも倒れかかっていた。
園川さんは下着姿の公夫さんを近くの空き地に避難させた。しかし、ほっとしたのもつかの間。すぐに青ざめた。数十メートル先の富田知子さん宅が全壊していたのだ。
◇ ◇
「かあちゃん、かあちゃん」。隣に住む長男賢一さんが、暗がりに向かって何度も叫んでいた。
知子さん宅は、1階の寝室部分がつぶれていた。小さな懐中電灯で母の姿を探す賢一さん。園川さんは店から発電機と業務用の電灯を持ち込み、辺りを照らした。「何とか命だけでも…」。できるのは、祈ることしかなかった。
午後10時すぎに県警の機動隊が到着。しばらくして他県の応援部隊も加わった。ただ、築150年の旧家は梁[はり]が大きく、チェーンソーでは歯が立たない。重機が入り、深夜になってようやく作業は進み始めた。
そして約7時間後の午前5時半。ようやく知子さんは発見されたが、すでに冷たくなっていた。
「知子さんは本当によか人でね。漬物を持ってお茶を飲みに行くと、いつも喜んでくれて…」。夫とともに救われた山中見栄さんは、旧知の友人の死を悲しみつつ、「私たちは救ってもらった命。頑張らんと」と涙をぬぐった。
◇ ◇
5月上旬。山中さん夫婦をはじめ多くの町民が避難する町総合体育館に、富田賢一さんの姿があった。この春から寺迫地区の区長を務める。住民の様子をできる範囲で確認して回る日々だ。
「先は見えんバッテン、責任があるけんな」。かつて経験した“駐在さん”の顔がそこにはあった。(内田裕之)
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