【連鎖の衝撃 経済編⑨】九州旅行キャンセル相次ぐ 風評被害の解消に苦慮
「がんばるけん! 熊本」。熊本地震からの再生の願いを込めたのぼり旗が立つ南小国町の黒川温泉。地震の影響は、初夏の観光シーズン、新緑と癒やしを求める観光客でにぎわうはずの人気温泉地にも忍び寄っていた。
「例年なら、この時期から夏休みの予約が入るのに、思うように入らず先の見通しが立たない…」。老舗旅館「御客屋」を営む北里有紀さん(38)の表情もいまひとつさえない。
4月16日の熊本地震の本震で、南小国町も震度5強を観測した。黒川温泉では一部の旅館で浴場などに被害が出たが、復旧は速く、約1カ月で旅館組合加盟の29軒のうち、大半の26軒の営業が再開した。
5月17日午後、同温泉の女将[おかみ]ら約20人の姿は福岡市天神の繁華街にあった。大型連休中の落ち込みを少しでも取り戻そうと、買い物客に宿泊割引券などを配り、国内有数の人気温泉地の健在ぶりをPRした。
同温泉の旅館組合長も務める北里さんは「九州北部豪雨や阿蘇山の小規模噴火のときも風評被害に悩まされたが、今回ははるかに影響が大きい」と先行きを心配する。それでも、「それだけ多くの人々に衝撃を与えた災害ということ。でも、負けたくない」と自らに言い聞かせた。
熊本地震の衝撃の“余波”は、他県にも広がる。
長崎県では、修学旅行の団体客を含む延べ9万6千人の宿泊が取り消しに。同県の観光担当者は「九州全体が危ないと思われているようだ」と困惑する。
鹿児島県でも、宿泊キャンセルが10万人を突破。九州全体でのキャンセル総数は、5月上旬までで熊本の約33万人を含め100万人を超えたとみられる。
九州経済調査協会(福岡市)は「キャンセルの動きは連休後には落ち着きを見せている」とするものの、「今も地震活動の終息を見通せない九州は旅行先に選ばれていない傾向が続いているようだ」と分析。影響は夏休み前まで続くと予測し、九州外からの観光消費額の減少は360億円に達すると見込む。
こうした危機的状況を受け、九州7県と九州観光推進機構(本部・福岡市)などは5月11日、九州の観光産業の復興に向けた緊急要望書を政府に提出。風評被害解消に向けた正確な情報伝達を強く求めた。
政府は、九州旅行に際して宿泊料金の一部を補助する支援を決めたが、同機構の村岡修治副本部長(52)は「私たち観光業としても、やれるんだということをアピールしないと国民の自粛ムードは払拭[ふっしょく]できない。被災した熊本の観光地こそ、前向きな情報発信が求められる」と強調する。
九州新幹線の全線開業や、大型クルーズ船の就航などによる外国人観光客の急増など、これまで順風だった九州観光に一転、逆風が吹く。
熊本市城彩苑の歴史文化体験施設を運営する「熊本城観光交流サービス」の秦雅之事務局長(60)は「熊本城は痛々しい姿になったが、それも歴史の一ページ。営業が再開できたら、城の修復作業をしっかり紹介し、復興の過程を知ってもらいたい」と話す。そして、「時間はかかっても、地震前より魅力的な観光地にしていけるはずだ」と前を向いた。(宮崎達也、後藤仁孝)
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