【連鎖の衝撃 経済編⑬】中小・零細の廃業懸念 事業継続へ細やかな支援
「力尽きた…」。熊本市の建材販売会社の男性社長(75)は5月下旬、従業員5人を前に唇をかんだ。
セメントや生コンクリートを建設会社に販売してきたが、4月中旬の熊本地震後、工事の取りやめが相次ぎ、受注が滞った。売り上げは半減し、資金繰りに行き詰まった。悩みに悩んだ末、破産申請の準備に入った。
負債総額は約7千万円。累積赤字を抱えていたとはいえ、直近の決算では過去最高となる4億円の年間売上高を達成し、業績は改善していた。借入先の銀行は返済の猶予を提案したが、「焼け石に水」と断った。
「いずれ復興需要が出てくるだろうが、日々の仕事がなくては、今を持ちこたえられない。熊本はこれから大ごとになる。うちみたいな会社がどんどん出てくる」。社長は先行きを憂慮する。
信用調査会社の東京商工リサーチ熊本支店によると、熊本地震の影響による経営破綻は、この会社が初めて。県内の負債額1千万円以上の倒産件数は、地震後の4、5月とも3件と低水準が続いている。
同支店情報部の辛島由崇さん(45)は「金融機関の支援は手厚く、倒産が急増する可能性は低い。ただ、家族経営の零細企業を中心に、自主的な廃業は増える恐れがある。地震後、休業して連絡が取れない企業も多い」と警戒する。
中小・零細企業の事業継続は、地震前から地域経済の大きな課題となっていた。経営者の高齢化や後継者難、人口減少による先行き不安を抱える企業は多く地震を機に廃業の動きが広がる懸念が高まっている。
県や商工団体、金融機関は危機感を抱き、地震直後から続々と相談窓口を設けるなど、中小・零細企業の事業継続を支援している。国も5月末、大型補正予算を組み、補助金などの中小企業支援策を打ち出した。
熊本商工会議所の窓口では、6月6日までに746件の相談を受け付けた。当初は漠然とした不安の声が多かったが、資金調達など具体的な相談が次第に増えてきたという。
高山晴司経営支援部長(52)は「営業を再開できても、持続可能かどうかが課題。従来とは経営環境が変わっているので、それぞれの事情に応じた細やかな対応が必要」と気を引き締める。
金融機関の支援も活発化している。県信用保証協会によると、被災した中小・零細企業への融資の保証を承諾した件数は、5月末までに1066件に達した。金額も124億2200万円に上り、被災企業以外を含む5月の保証実績は前年の約2・5倍に増えた。
日銀熊本支店の竹内淳一郎支店長(49)は「小さな商店などは1カ月の休業で資金繰りが苦しくなるが、金融機関は迅速に対応している」と評価する。
熊本市東区の地場スーパー「ショッピング丸勢健軍店」は5月中旬、損壊した店舗を建て替え、再出発することを決めた。建物は賃借で、被災直後にいったん閉店したが、所有者に掛け合い、売却に応じてもらった。銀行は億単位の融資を快諾したという。
「親の代から30年以上、地域に支えられてきた。待ってくれているお客さんのために、少しでも早く再建したい」。森茂遠社長(48)は来春の再開を目指し、奔走する。(小林義人)=「経済編」おわり
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