安心できる場 自分の中に【「家族」を超える 親と子の視点で⑤】
「自分は家族っていう、最小単位の関係性もうまく築けていない」。ユウキさん(21)=仮名=は父親から暴力を受け、幼少期をおびえて過ごした。友達や彼女ができてもどこか信じきれない。常に相手の反応をうかがい、自ら距離を取ることもあった。
児童相談所の介入で、里子らが集まる「ファミリーホーム」という安心できる生活を得たものの、実の家族とのこじれは、ユウキさんが家族以外と人間関係を築く上にも影響した。
県内の高校を卒業してすぐに、北九州の自動車工場に就職したものの、職場環境や人間関係が合わない。「みんな連帯感を持って仕事をしているのに、自分だけが歯車がかみあっていない」。体調を崩し、辞職。安心できる後ろ盾がないことは、何に対しても強いプレッシャーにつながった。「失敗する自分のことが受け入れられなかったんです」
その頃から関わりを持ち始めたのが、社会的養護で育った子どもたちを支援する団体「ブリッジフォースマイル」だ。子どもたちの居場所として熊本市中央区にある「かたるベースくまもと」に、ユウキさんは開設当初から通う。食事の準備をするスタッフを手伝ったり、ボランティアを見送ったり。「ここには(過去や生い立ちに)何かしらあるタイプの子が集まる」
スタッフの尾上佳代さんは「ユウキがいるから、ここに通いやすいと感じている子や、話したいと存在を意識している子は多い」と話す。ユウキさんはあえて相手の境遇に踏み入ることなく、自然な関わりをする。「しんどかった経験が長い分、いろいろな悩みや怒りもあったと思う。自分の弱さを見せることができることが彼の強み。人とのつながりをつくる力がある」
ユウキさん自身も、関わる人が増えたことで、考え方が変わった。「人それぞれできること、できないことがあるって思えると、自分も100点を出さなくてもいいんだって」
父親から「お前のせいで」と否定的な言葉の中で育ったユウキさん。「人は自分を愛さないし、人生でうまくいかないのも自分のせいだと思い込んでいた。でも僕は僕なんだって、今の自分を認めることの方がずっと楽だと気付いたんです」
自分を肯定していくことが、過去の生い立ちを受け入れることにもつながっていった。父や家族に対する複雑な思いが消えたわけではないが「それも自分をつくりあげたもの」。年の離れた姉たちとも、連絡を取るようになった。
不安と向き合いながら生きてきたユウキさんの20年間は、「ずっと帰る場所がないって思っていた」という自分すら否定し続ける人生でもあった。緩やかなつながりの中で、心も少しずつほぐれてきた。「今は、安心できる場所は自分の中にあると感じています」(「ゆりかご15年」取材班)
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