【あの時何が 県災害対策本部編⑥】罹災証明書発行へ“先達”の助言
「仮設住宅には自宅の被害状況が分からないと入れません。個人の生活の復旧が遅れますよ」。熊本地震の本震から2日後の昨年4月18日。熊本県庁に防災服姿の新潟県防災企画課長、細貝和司(58)の姿があった。
細貝は、熊本県の幹部らに罹災[りさい]証明書の発行に向けた「家屋被害認定調査」を早急に始めるよう迫っていた。
罹災証明書は、仮設住宅の入居や被災者生活再建支援金といった公的支援を受けるために必要な書類だ。新潟県は2004年に中越地震、07年に中越沖地震を経験。細貝は被災県の先達として、要請を受ける前に“プッシュ型”支援として駆け付けてきた。
罹災証明書の発行は市町村が実施する「自治事務」。しかし、被災地では市町村の職員が避難所の対応に追われ、他の行政機能は止まっていた。
もちろん県職員に被害調査の経験はないが、「一日も早く調査を始めよう」。細貝の助言を受け、県市町村課長、竹内信義(54)と同課財政班長、畑中利徳(46)が市町村の支援に動いた。
畑中たちは、市町村からの相談を受けるコールセンターを県庁に開設。被害調査に当たる国や県からの応援職員の手配に奔走した。4月下旬には新潟大などが開発した調査システムを市町村職員に説明する会合を開いた。
ただ、水害による家屋被害の調査を経験した市町村はあるが、地震に伴う被害調査は初めて。その上、全国統一の調査手法もないため困惑が広がった。
「内閣府のモデル手法と違う」「やり方がばらばらで結果に差が出ないのか」。質問が相次いだ。市町村も早く調査を始める必要に迫られていただけに焦りが募っていた。
さらに矢継ぎ早に発表される政府の方針も現場にとってはプレッシャーとなった。首相、安倍晋三(62)は4月25日、被害認定や罹災証明書の交付に最優先で取り組むと表明。防災担当相、河野太郎(54)は5月6日、「5月中の交付終了」を目標に掲げた。
しかし、5月に入ってようやく被害調査の申請受け付けを始めた町もあった。畑中は市町村職員から「人もいないし、現場は回らない。厳しいんだよ」と不満をぶつけられた。
人を増やせば解決するのか、それ以外に原因があるのか-。政府が示すスケジュールに職員たちが負担を感じた一方、被災者の不安が和らいだのも事実。畑中は「市町村の担当者の不満を一つずつ解決していくしかない」と覚悟を決めた。1次調査約12万6千件は、5月中にほぼ終えた。
県人事課によると、地震後、県や被災市町村に応援に入った全国の自治体職員は3カ月間で延べ4万7千人。県危機管理防災課長、沼川敦彦(54)は振り返る。「先の展開が見えない不安が常にあった。大災害を経験した自治体からの支援がなければ、対応はもっと後手に回っていた」(並松昭光)=文中敬称略、肩書は当時
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