【あの時何が 県災害対策本部編⑩】受援体制の整備という「宿題」抱える
熊本地震の本震から3日後の昨年4月19日、県庁新館2階の政府現地対策本部(政府現対)にいた内閣官房内閣審議官、兵谷芳康(59)の携帯電話が鳴った。2008年から4年間、熊本県の副知事を務めた兵谷。県と国の“つなぎ役”として同日未明に現地入りしたばかりだった。
「困っているんだって?」。電話の主は前佐賀県知事、古川康(59)だった。一つ一つの避難所にどのような物資があって、何が足りないのかといった情報が、被災市町村や国、県、さらに集積拠点や避難所で共有されていないという話を聞き、電話してきた。
古川は、兵谷とは旧自治省の同期入省組。知事3期目の14年に衆院議員(佐賀2区)に転身した。全国知事会などで交流する機会も多く、互いに「親友」と認める間柄だ。
古川が提案したのは、日本IBMが東日本大震災を機に開発した「避難所支援システム」の活用だった。
避難所の担当者が、食品や衛生用品、薬などの分類から必要な物資を画面操作で選び、発注できる仕組みになっていた。情報は市町村や国、県で共有し、物資の発送・到着の管理もできた。
この時、救援物資の手配は、市町村や国、県の職員が電話やファクスでやりとりして手作業で集計する“アナログ”方式だった。同じ避難所から不足分が重複して発注されたり、逆に発注漏れがあったりというのが課題だった。
さらに17日から「プッシュ型」による政府調達物資の大量輸送がスタート。既に企業や自治体、一般からの物資を受け入れていた市町村の集積拠点は混乱していた。
「使えるかもしれない」。連絡を受けた兵谷はすぐに、ソフトバンクからタブレット端末千台を無償で借り受け、市町村を通じて避難所に配布。試験運用を経て大型連休直前の4月28日から本格稼働を始めた。
益城町は10カ所の避難所に端末を配布。10月末に避難所を閉鎖するまで活用した。「電話でのやりとりが省かれ、記録も残る。物資の管理業務から手が離れ、ほっとした」。町総務課長補佐、清水裕士(39)は振り返る。
ただ、県内全体の28日の避難者数は約4万人で、ピークだった17日の18万人から既に大きく減っていた。水道やガスなどライフラインもおおむね回復し、多くの避難所は混乱が収束に向かっていた。結果的に熊本市の避難所では、タブレット端末がほとんど活用されないケースもあった。
政府の物資支援は最終的に、5月6日まで続いた。この間、熊本に送られたのは、食料だけで278万食に上った。
「何がいつ、どのくらい被災地に届くのか」「受け入れ態勢をどう整えるのか」-。国、自治体ともに受援体制の整備という「宿題」を抱えた。(並松昭光)
=文中敬称略、肩書は当時
RECOMMEND
あなたにおすすめPICK UP
注目コンテンツTHEMES
熊本地震-
「災害時、障害者は取り残される」くまもと障害者労働センターの倉田代表が警鐘 能登の避難状況聞き取り【熊本・能登 重なる課題】
熊本日日新聞 -
頼氏の台湾総統就任 「より一層交流を」 木村知事が談話
熊本日日新聞 -
タンク給水車、次は火災現場へ走れ 熊本地震や豪雨で被災者支援に活躍 特殊車両メーカー、大津町に寄付
熊本日日新聞 -
地震・豪雨復興、公共交通維持など国に要望へ 熊本市で九州各県議長会、23項目を了承
熊本日日新聞 -
「復旧・復興の経験を能登に」 坂本農相、熊本市の農地など視察
熊本日日新聞 -
大規模地震の津波到達時間、熊本県が調査へ 知事「県民の参考に」
熊本日日新聞 -
「今しか見られない熊本城に注目して」 熊本地震で被災、復旧事業を報告 熊本城調査研究センター
熊本日日新聞 -
宅地液状化の復旧、能登被災地でノウハウ支援 熊本市が職員派遣 家屋の被害認定調査でも経験生かす【熊本地震】
熊本日日新聞 -
【重なる課題 熊本・能登地震】被災者の心開いた共感 日赤熊本が延べ70人派遣の支援終了 初動遅れに反省も
熊本日日新聞 -
災害に備える大切さ伝えたい 西原村職員から転身の夜間中教諭・坂本さん 熊本地震の経験生かす
熊本日日新聞